犬の習性に着眼したミステリー 『ソロモンの犬』より ☆☆

『ソロモンの犬』 著者 道尾 秀介


「ソロモンの指環」と言う言葉を聞いたことがあるだろうか? 

実は、おじさん、この「ソロモンの指環」という本を読もうと、古本の書棚を探していたのだが、ふと、ソロモンと言うタイトルが目に入り、手に取ってみることになった。

それは、「ソロモンの指環」ではなく、『ソロモンの犬』であった。

いやはや、「ソロモンの指環」と言えば、動物行動学の有名な書物のタイトルであることは言うまでもない。

旧約聖書に書かれているソロモン王が、その指環をはめると、あらゆる動物と話しができたという伝説に由来する。

おじさんも間違ったなと思ったが、この本も、『ソロモンの犬』とあるのだから、きっと動物学の本だなと思って読み始めてみた。

しかしながら、あにはからんや、この本は、犬の習性を利用したミステリー小説だった。

大間違いだったが、まあ、完全に見当違いの内容でもなさそうなので、とりあえず読んでみることにした。

読んでみると、この本は確かに犬の習性を利用したミステリー小説なのだが、実は、その実態は、青春ミステリー小説、いや、青春ラブストーリーであることが分かった。

いやもう、少し拍子抜けしたのだが、読んでみると意外に面白く読めた。

そうだな、宮部みゆきさんが、時々、こうした青春ミステリーのジャンルの作品を書くが、この分野、まだまだ未開発のジャンルだと思う。

作者のプロフィールを確認してみると、まだ30代と、若き新進気鋭の作家である。

別に、ジャンルにこだわらない作家らしく、青春ミステリーのジャンルを究めようと言うことでもないらしい。

とにかく、こうした大学生の若い世代を生き生きと描写できる作家は貴重だと思った。

おじさん、世代的には、かなりのずれがあるのだが、読んでいると、学生時代の甘酸っぱい思いが込み上げてくるようだった。

言ってみれば、時代は変わり、世代が代わっても、こうした若者の男女の甘酸っぱい思いのやり取りには変わりない。

思わず、おじさん、ささやかだけれど、自らの大学の頃の恋愛と呼べない程のほのかな恋愛ゴッコの記憶を呼び覚まされた。

この本は、犬の習性を利用した純然たるミステリー小説である。

いささか、話しの焦点がそれたようだが、この作家の青春時代における、ほのかな男と女のやり取りを描写する才能はたいしたものであると思う。

ところで、小説の中味だが、ある大学の2組の恋愛未満のカップルの眼前で、幼い小学生の子供がトラックに轢かれ死亡するという事故が起こる。

事故の原因は、その少年が連れていた犬が、突然、向い側の歩道に向かって走り出し、少年が、犬を繋いでいたリードに引っ張り出される形で、道路に飛び出してしまったことによる悲劇だ。

犬が道路に飛び出したのは偶然だったのか? 

それとも、何らかのトリックがあったのか? 

この本は、そんな犬の習性を持ち込んだミステリーとなっている。

ソロモンの指環があれば、事件の解決は、いちころなのだが…。

着眼点は非常に面白い。

しかし、この犬の習性を使ったミステリーは、鮮やかに成功しているだろうか? 

多分に強引なストーリー展開も見られるが、動物の習性をミステリーに取りこんで、新しいタイプのミステリーの世界を切り開こうという意欲は、すごく買える小説だと思う。

まあ、百歩譲って、この本を青春恋愛小説として読んで、甘酸っぱい青春の思いに浸るのも良いかも知れない。

くれぐれもご注意!

この本は、決して動物学の本ではありません。

  ※ヤフーブログにて 2015年1月16日 アップ

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