名人は艶笑噺が得意 『CD/二代目 三遊亭円歌1』より ☆に関係なし

『CD/二代目 三遊亭円歌1』

まず、三代目三遊亭円歌さんの方から話しを始めたい。

このCDに収録されている二代目三遊亭円歌さんの弟子に当たる。

思い出される人もいるだろう。

外見は、失礼ながら、あえて言えば、チョッと見、メガネをかけた豆狸のような落語家さんだ。

おじさんが言うのも何だが、可愛い! 

しかし、おじさんの子供の頃に遡れば、この落語家さんほど、懐かしい思い出のある落語家さんはいない。

さて、いつもながらのおじさんの思い出話しに入る前に、断っておかなければならない。

今では、この落語家さんは、名跡を引き継ぎ、三代目三遊亭円歌さんと名乗っている。

おじさんがよくテレビやラジオで聴いていた頃には、いやまあ、この落語家さんもまだ若かった。

当時は、「やまのあな あな…」の三遊亭歌奴(うたやっこ)さんと呼ばれていて、売れに売れていた。

前歴が、国鉄の職員で、「新大久保」と言う駅名のアナウンスはお馴染みだ。

だから、顔を見れば、三代目円歌と言うより、「歌奴」の名前を、まず思い出す人が多いかもしれない。

合点していただいただろうか? 

とは言え、この三代目円歌さんも、おじさんが、子供の頃に、既に、随分活躍されていたのだから、もはや、かなりのご年配と言うことになる。

いつも通り、記憶は遡るが、おじさん、子供の頃は、ラジオでよく落語番組を聴いていた。

実家がテーラーだったから、店舗兼用の作業場には、常にラジオが流れていた。

一日中、かけっぱなしだ。

概ね、仕事は手作業のため、ラジオは耳の慰みで、邪魔にはならない。

いやまあ、今でもデザインスタジオでは、FM放送が、よく流されているのと同じだ。

いわゆる、ラジオが単純な作業の退屈さを紛らわせてくれるBGMのようなものである。

おじさんは、外遊びをしない、甘えん坊の「はぐれ子供」だったため、オヤジとオフクロが居るこの作業場に、何をするのにも入り浸っていた。

遊びも本を読むのも、おやつを食べるのも、ごくたまに勉強するのも、みんなこの作業場の作業台でこなしていた。

特に、冬などは、手先を使う作業場だけに、側面が真っ赤になるほど、練炭ストーブがガンガンと燃え盛っていた。

いやあ、頗る暖かくて気持ちのいい場所なのだ。

夏は夏で、家の中で一番広い空間だけに、風が渡り、暑気を凌ぎやすい。

おじさん同様、飼っていた猫のミーコも、概ね、この作業場で、ちゃっかり居場所を見つけて、ぐうたらしていた。

当時は、結構、ラジオでは、お笑い番組が多かった。

大体、その頃の演芸番組は、漫才と落語がセットでオンエアーされる。

オフクロはお笑いが大好きだから、ついつい、当時、よくやっていた悩みの相談番組や演芸番組にダイヤルを回す。

いやまあ、漫才は、比較的安心して聴けるのだが、時々、落語の場合には、困った問題が起こるのだ。

オフクロも、どうも、落語には、いささか閉口しているところがあった。

何しろ、作業場だから、多い時には3人位のうら若きお針子(20才前後の住み込み見習い)さんが、生地をカットしたり、ミシンで縫製をしたりして働いていた。

どうも、あの頃の落語の演目には、このCDの様に艶笑噺が結構多かった。

今ではきっと放送局の放送コードなどがあって自主規制されているのだろう。

ところが、当時は、色町での女郎界の話しや若衆の夜這いの話しなどを題材にした演目の落語が臆面もなく平気でオンエアーされていた。

いやまあ、最近は、江戸の吉原や上方の北新地などの色町事情や、遊郭での女郎買いの話しをしても、既に遠い過去の風俗になってしまっている。

もはや、今のお客さんの方でも、その辺のことは何が何やら分からないだろう。

具体的にイメージできないに違いない。

上方では、現三代目の桂春団治さんなどは、こうしたスケベな噺や、若干下劣な噺を比較的得意としていた。

ホント、今では、こうした噺は、落語のCDくらいでしか聴けなくなってしまい、今の若い人には気の毒だ。

先日、おじさん、井原西鶴さんの浮世草子の好色ものを話題にしたが、まあ、こう言う場所での男と女の遣り取には、セクハラを糾弾する怖い女史には分からない微妙な人情の機微や男女の遣り取りのおかし味が顕著に現れるものだ。

落語の題材や背景としては、これほど、もってこいの舞台はないだろう。

それはともかく、どうも、オフクロは、まだ子供のおじさんや、お針子さんの手前、随分、気兼ねしていたようだ。

猫のミーコも含めて、結構、おじさんもお針子さんも、さほどナーバスにならず、自然な形で、いささかエッチな噺も拝聴していたと思う。

この辺の事情については、大人がハラハラするよりは、ずっと子供や乙女は承知のスケベエなのだ。

まあ、いずれにしろ、三代目の円歌(歌奴)さんが、ヘルマン・ヘッセの「山のあなたの空遠く…、幸い人の住むと言う…」などの詩句をもじって、「山のあな、あな、あなたもう、寝ましょうよ!」などとやれば、ハラハラしていたのに違いない。

やっと話しが辿り着いたが、その弟子よりも凄いのが、さすが師匠だけのことはある、このCDの二代目三遊亭円歌さんだ。

とにもかくにも、艶笑噺が得意だった。

このCDで取り挙げられている『首ったけ』や『馬くらべ』のような、吉原の女郎買いや女性の枕元に忍んで行く夜這い噺など、ことのほか上手だった。

また、そうした、他の落語家たちも演じる、れっきとした演目だけでなく、艶笑小噺を繋げて、自在に高座を務めることも多かった。

昭和30年代には、演芸場で、この人が艶笑噺を語るとなれば、普段よりもずっと、客席が大入りになったと言う。

席を増設するために、折り畳みのパイプ椅子まで投入されたそうだ。

人間、誰しも、お下劣な噺と下ネタは好きなのだ。アハハ! 

いやはや、下ネタで笑わせるのは、お笑い芸人には邪道だとよく言われるが、おじさんには、それも、話す人と話し方次第ではないかと思うのだ。

いやもう、艶笑噺が似合う人と、そうでない人がいる。

ホント、増々いやらしくなる人と、可愛気に見える人がいる。

かって、森繁久彌さんが、女優のお尻をヒョイと触っても、セクハラや痴漢で訴えられることがないのは、やはり人柄と言うか、人間の修養の問題だろう。

二代目円歌さんは、かなりきわどい言葉や表現をするが、それが、いやらしく聴こえないのが不思議だ。

芸の力と言うべきだろう。

まあ、このことは、聴く人によるので、セクハラにナーバスな人は、やはり、あまり、二代目三遊亭円歌さんを聴くべきではないかもしれない。

そんな人は、可哀そうな気がしないでもない。アハハ! 

それにしても、二代目円歌さんの艶笑噺は、何も、日本における女郎買いの世界に限られるのではない。

二代目円歌さんは、今で言うところの高学歴落語家さんで、その艶笑噺のネタは、フランスからドイツ、英国に至るまで、ワールドワイドで、世界を股にかけているのだ。

どうも、シモの言葉が多くなる。

さてさて、あまりこのCDの艶笑噺の題材に捉われてしまって、この大名人を艶笑噺の人とだけイメージされてはいけない。

実は、このCDは、八巻にも及ぶ大落語全集で、まだ、第一巻目なのだ。

実は、おじさん、まだ三巻までしか聴いていないから、これから最後まで、しっかり集中して聴くつもりだ。

いやもう、八巻もの大落語全集が出される位だから、この人は、例の三遊亭圓生さんに匹敵するほどの、多くの持ちネタを演じることのできる大名人なのだ。

だから、艶笑ものも、その芸の一端にしか過ぎない。

実は、おじさん、これから、円歌さんの幅広い演目レパートリーに触れるのを楽しみにしている。

おじさんが、直接寄席に行って聴くことが叶わなかった志ん生さん、文楽さん、圓生さんと並ぶ、紛れもない一世代前の大名人なのだ。

先述のように、お弟子さんの三代目円歌さんは、子供の頃、よく耳にしたが、師匠である大御所については、本格的に聴き込むのは初体験だ。

で、続けさまに六題程聴いたが、やはり、さすがと言わずにはおれない。

大名人だ。

ただし、人間国宝にはなれないだろう。

いやはや、どうして、落語界は、大正から昭和の初めの生まれに、こんな個性的な名人が輩出したのだろうか? 

おじさん、機会があれば考えてみたい。

それはさておき、実は、落語を聴いてみれば、すぐに分かるのだが、この二代目円歌さんには、若干、吃音があり、充分に呂律が回りにくいところがある。

やや語尾が聴き取りにくい。

ところが、不思議に、聴かせ所になると、一転、口調が滑らかになり、驚く程に流暢になるのだ。

それまでの吃音や聴き取りにくさのために、おじさんたち客は、耳に神経を集中させている。

まさに、耳を研ぎ澄まし、噺に注意を向けた時に、ドンと調子が上がり、滑らかな語り口に変っているのだ。

いやはや、この吃音は、おじさんたちを引き込むための究極の芸ではないかと思える程だ。

いやもう、こうしたハンディの克服により、絶妙の間(ま)と言葉の強弱の抑揚が生まれてくるのだと思う。

名人芸なのだろう。

やはり、何の道でも、大きなハンディを抱えていたり、それを乗り越えた人が、本当の自分なりの名人の域に達することができるのではないか?

どうして、円歌さんが艶笑噺が巧みなのかが分かったような気になってきた。

人生の泣き笑いや、酸いも甘いも知り尽くした人でなければ、本当は、艶笑噺など出来るものではないのだ。

だから、落語家さんは、艶笑噺をして、いやらしく聴こえなければ、名人になったと言えるかもしれない。

では、ここで、二代目円歌さんの艶笑小噺を一つ。

…… 

「楕円形で、周りに毛が生えていて、いつも濡れているものはなあに。

もちろん、それは、《眼》ですよ。」 

……

エヘヘ!

いやはや、お後が、よろしいようで…。

  ※ヤフーブログにて 2016年3月3日 アップ

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